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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)5278号 判決

原告 株式会社カシタ製作所

右代表者代表取締役 吉川泰弘

右訴訟代理人弁護士 高田勇

被告 柳藤造

右訴訟代理人弁護士 津川博昭

主文

被告は原告に対し金二〇九万八三一〇円及びこれに対する昭和五四年九月六日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第一項は原告が金七〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

第一、申立

(請求の趣旨)

一、主文第一、二項同旨。

二、仮執行宣言。

(請求の趣旨に対する答弁)

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張

(請求の原因)

一、原告は、鍍金用機械器具の製造販売及び加工業を営む株式会社であり、被告は、泉ケ丘メッキ又は泉ケ丘興産の名称で鍍金加工業を営む商人である。

二、原告は、昭和五三年八月下旬頃被告から鍍金用治具(フック)の製造の依頼を受け、これに応じて、次のとおり、同年九月七日から同年一一月一七日までの間計一五回にわたり被告に対し鍍金用治具(フック)計七四〇個を代金計二〇九万八三一〇円で売渡した。

三、仮に、被告が、その主張のように、昭和五三年八月二五日訴外日研こと勝正義に対し営業を譲渡したものであるとしても、被告は、その後も右訴外人に被告が従来使用していた泉ケ丘メッキ又は泉ケ丘興産の名称を引続き使用させ、且つ自らも従来と同一の場所で従来同様鍍金加工の業務に従事し前記商品の納入にも立会っていたものであり、そのため、原告は、被告を営業主であると誤認して前記商品を売渡したものであるから、被告は、商法二三条により右売買によって生じた債務については右訴外人と連帯してその責に任ずべきものである。

四、仮に、前二項の契約責任が認められないとしても、被告は、原告に対し、恰も自らが契約の当事者であるかのような言動をして、原告に、前記商品を前記訴外人に納入させ、右訴外人の倒産により右商品の代金の回収が不能となった結果、右代金額相当の損害を蒙らせたのであるから、民法七〇九条により不法行為責任に任ずべきものである。

五、よって、原告は、被告に対し、主位的には、売掛代金二〇九万八三一〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月六日から支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を、予備的には、損害賠償金二〇九万八三一〇円及びこれに対する不法行為後の昭和五四年九月六日から支払すみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求の原因に対する答弁)

一、請求の原因第一項記載の事実は、うち原告が鍍金用機械器具の製造販売及び加工業を営む株式会社であること及び被告が昭和五三年八月二五日まで泉ケ丘メッキ又は泉ケ丘興産の名称で鍍金加工業を営んでいたことは認めるが、その余は否認する。被告は、右同日訴外日研こと勝正義に対し、営業全部を譲渡し、原告を含む取引先にその旨を通知し、自らは廃業した。

二、同第二項記載の事実は、否認する。原告主張の商品の買主は、前記訴外人である。

三、同第三項記載の事実も、否認する。原告は、前記営業譲渡の事実、従って右商品の買主が右訴外人であることを承知して右売買を行ったものであり、右訴外人から右商品の代金の支払として昭和五三年一〇月二五日金額一五万六七六〇円、同年一一月二五日金額一〇五万四〇五〇円の各約束手形を受領した。

売渡日(昭和五三年月日) 品名 数量(個) 代金額(円)

九・七 二段四〇ケツキ 四〇 一三〇、〇〇〇

九・九 六段二四ケツキ 二 一一、五〇〇

九・九 二列六ケツキ 二 九、五〇〇

九・一四 四段一六ケツキ 二 五、七六〇

九・二二 四段一六ケツキ 一〇〇 二八八、〇〇〇

九・二二 三段六ケツキ 一 五、七五〇

九・二八 二列四ケツキ 一 二、三〇〇

一〇・二 二列八ケツキ 一〇〇 二三〇、〇〇〇

一〇・二 二列六ケツキ 二 八、〇〇〇

一〇・五 二列六ケツキ 一〇〇 四〇〇、〇〇〇

一〇・一六 二列六ケツキ 三〇 一二〇、〇〇〇

一〇・二五 Y四ケツキ 三〇 七三、五〇〇

一〇・三一 三段六ケツキ 三〇 九六、〇〇〇

一一・九 三段六ケツキ 一〇〇 三二〇、〇〇〇

一一・一七 八段八ケツキ 二〇〇 三九八、〇〇〇

計七四〇 計二、〇九八、三一〇

四、同第四項記載の事実は、否認する。

五、同第五項は、争う。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、原告が鍍金用機械器具の製造販売及び加工業を営む株式会社であること及び被告が昭和五三年八月二五日まで泉ケ丘メッキ又は泉ケ丘興産の名称で鍍金加工業を営んでいたことは、当事者間に争いがない。

〈証拠〉によれば、被告は、昭和五三年八月二五日訴外日研こと勝正義に対し前記営業を譲渡し、自らは右訴外人の従業員となったことが認められるが、被告が右営業譲渡の事実を直ちに原告ら取引先に通知したことを認めるに足りる証拠はなく、〈証拠〉によれば、右営業譲渡後も、右営業は従前と同一場所である被告の肩書住所で同一形態により行われ、被告以外の従業員も従前と同一であり、商品の注文や納品受領も被告その他の従業員、それも殆んどは被告が泉ケ丘メッキ又は泉ケ丘興産の名称を使ってしていたのであって、右営業譲渡の事実は、昭和五三年一〇月に入って原告ら取引先から商品代金の請求を受けるに及んで被告が取引先の担当係員に右請求は前記訴外日研こと勝正義にされたい旨告げて通知したことが認められる。被告本人(第一、二回)の、右営業譲渡後は、右営業は日研の名称でなされていた旨の供述は、前掲証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

二、〈証拠〉によれば、請求の原因第二項記載の商品は、原告が昭和五三年七月から同年八月にかけて被告から予め製作の注文を受け、その後製作にかかってそれが完成したのち、同項記載のとおり前記営業の主体に売渡したのであり、原告は、右売渡当時も右営業の主体は依然として被告であると認識していたことが認められる。被告本人(第一、二回)は、原告は右売買当時右営業の主体が訴外日研こと勝正義に変っていることを認識していた旨供述するが、右供述は、前項認定の事実及び前掲証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。〈証拠〉によれば、原告は、昭和五三年一〇月二五日、同年一一月二五日及び昭和五四年二月二六日訴外日研こと勝正義から、前記商品の代金の支払のために、同人振出の金額合計右商品代金総額の約束手形を受領したことが認められるが、前記甲第四号証及び証人平田正治の証言によれば、右手形受領は、必ずしも右商品の買主が右訴外人であることを認め或いは右商品代金の支払につき被告が免責されることを認めてなされたものではないことが認められるので、右手形受領の事実も、さきの認定を左右するものとは考えられない。なお、前記甲第七号証の一ないし四及び証人平田正治の証言によれば、前記手形はいずれもその支払がなされなかったことが認められる。

三、以上の事実によれば、前記商品の買主は、前記訴外日研こと勝正義とみるべきであろうが、右商品の代金の支払については、被告も、商法二三条によりその責に任ずべきものであり(前記商品については、前記営業譲渡前すでに、原告と被告との間に製作物供給契約が成立していたとみる余地もある)、被告は、原告に対し、右商品の代金二〇九万八三一〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和五四年九月六日から支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うものといわなければならない。

よって、原告の本訴主位的請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 露木靖郎)

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